備忘的偏愛録#1 【Barbaのシャツ】

まえがき

前触れもなく、急にシャツの起源について語り出すようなことも悪くはないだろうとは思ったが、せっかくの機会なので、前段を構えることにした。オンラインストアをはじめ、ものを書くにあたり、何について語るべきか相当悩んだ。悩みすぎて、いっそオンラインすらもやめてしまおうかと思うほどだったが、Webサイト製作費をすでに支払ってしまった手前、何か捻り出すように書こうと思ったのは、洋服をどう感じているかという話だった。だからこの備忘的偏愛録では、歴史や起源、蘊蓄について深掘りするのは一旦脇に置いておいて、わたしたちが個人的に良いと思っているものについて、特に推敲もせずに正直に書き連ねること、そしてそれを続けるところからはじめてみようと思った次第である。

Barbaのシャツ
ナポリのシャツの魅力は、なんといってもその職人仕事に宿る自然な色気だろう。ミラノのシャツはどこか必要以上に整っている。たとえば北イタリアのブランドであるCANALIのシャツはとても綺麗だけど、どこか金融系の香りがする。別に嫌いなわけじゃないんだが、趣味が金稼ぎみたいな人たちとはどうも仲良くなれない。自分が捻くれていることは百も承知だが、そういう意味で、ナポリのシャツは、ニンゲンが作っている感じがする。生きている、というと、また大袈裟な…と言いたくなるが、あながち間違いではないのかもしれない。

あるいは、その肩周りや襟裏に、職人の息遣いが宿っている…と言うとまるでわたしがシャツのことを隅から隅まで理解しています、といったような語り口だが、シャツ職人は間違いなく命をかける価値のある職業で、ファッションデザイナー/ 古着屋 のわたしがいくら勉強したところでその真髄を知り得ることなどない。しかし、その上であえて言おう、ナポリのシャツは、かなり有機的である。とくに、お金持ちの大食漢が仕立てたス・ミズーラ(ビスポーク、誂えもの)のシャツを古着で見つけてそれを羽織る時、着用者の身体と服の持つ記憶のズレ、その違和感に一回きりの有機性が宿る。それを面白がって、わたしたちはずっと「古着のナポリのシャツ、古着のナポリのシャツ」と言い続けている。fatto a mano a Napoli、これほどテンションの上がるシャツのタグの表記はなかなかない。


さて、シャツの詳しい話をする前に、ナポリの話がしたい。とはいえ、ナポリってどんな街?と言われると端的に言葉で説明するのは難しい。行ったことないと言われそうだが、どちらかといえばあなたがイメージするモロッコに近いような気がする。例えばアパートとアパートの間には洗濯物を干すための紐がかかり、黄色、ピンク、水色のカラフルな建物が立ち並ぶ街は、どこかざらついている。ミラノとナポリ、同じイタリアといえど、その街や人は大きく異なる(もちろん通底するものは同じだが)。語弊を恐れずにいえば、発展途上っぽいとか、田舎っぽいとかそういった形容になるのかもしれないが、これは資本主義文明に支配されたわたしという人間の悲しき性なのかもしれない。事実、ナポリの平均月収はミラノの半分程度である。しかし、忘れてはならない。イタリアで一番食事が素晴らしい街もナポリであり、イタリアで一番綺麗なシャツ(あるいはスーツ)を綺麗に作る街もナポリなのである。そして、その美学はどちらも素材を殺さないシンプルさにおいて共通している。長らく続く伝統的な手仕事、自然との対話。それは日本の民藝にも通ずる。

そんなイタリア・ナポリを代表するシャツのブランドはいくつかある。本当に最高クラスのクオリティのものを手作業で作るカミチェリア(シャツ屋)は、生産量も少なく、ほとんど日本ではマイナーである。細部を見れば見るほど惚れ惚れするが、わざわざオーダーした極上のシャツを手放す人はそう多くはないことは想像に難くないし、実際至極の一着なんてものはなかなか見つからない。

しかし、その美学を踏襲しながら、ナポリでの手作業の入った量産を実現している、とても良いブランドがある。それがBarbaである。ああ、言われなくてもわかっている、Barbaは27歳の若者が今更紹介する必要のあるブランドではない。

それでもおすすめしたい、ナポリらしい細い糸を使ったコットンポプリンのシャツ。細かく言えばドレスシャツ。ジャストサイズでネクタイを締めてももちろんいいが、少し大きめで羽織るのが気分だし、あえてこういうものを古着で買う面白さだ。ハンドステッチは完璧であってはいけない。0.1ミリの誤差に生命性を見出している。襟、肩周りのイセ、ヨークのハンドワークよって生まれる1mm前後の連続した余裕がマシンメイドでは実現できない動きを生地に与え、その隙間で生地が重力と遊ぶ。光がそこを照らして、目を凝らさなければ見えない陰影ができる。ドレープとは呼べないほどの、ささやかなドレープ。無駄なテンションがかかっていない、自然なままのコットンポプリンの生地。ボタンを開けると、肌あたりの良い平織りの綿のシャツは風を孕んでふわりと揺れる。その動きの中にちらりと覗く肌、南イタリアの色気をまとったシャツ。夏に腕を捲って着る。ボタンは2つ、いや、せっかくだから3つ開けてしまえ。ナポリの風を、極東の島国 日本で感じたいのだ。

Barba Dress Shirt (¥22,000-¥24,200 tax in)